瓦礫の中のゴールデンリング

アニメを作ってます。アニメがお仕事です。

6月9日、昨日は日曜日だったが小金井方面のスタジオで仕事。

二日酔いで体調が悪く、2時間ぐらい床で寝っ転がってたが、週中にレイアウトラフ原画のチェックを済ませないといけないというミッションを何とかやり遂げた。10月番組なのだが、元々は3月に依頼が来てその5話の演出処理をしていたはずだった。ところが、6話の担当者が200カットばかり抱えてチェックを出さないというので、先月急遽代役をやってほしいと追加の依頼が来て、遅れている仕事なのでほんとは先月中に、ということだったが、まあその辺は制作も多少の遅れは見通しのうちだろう。

それで今日は同じシリーズの8話の演出打ち合わせ(これは最初からの予定通り)、というわけでいっぺんに3本動き出してしまい、さらにほかのスタジオの仕事も抱えているのでえらく過密になってきた。こういう時は一つ一つ順繰りに状況を整理しながらやっていくしかないのだ。しんどいなあ。まあがんばれ、俺。

「その域に達していない」。

「監督においてその域に達していない」と制作会社のホームページでテレビシリーズの監督解任を発表されたのがネットで話題になったのが、僕が最近いろいろ書いている監督氏の名前を知った最初だった。その作品は観ていない。仕事でやってると熱心に録画したり視聴したりしないのですよ。特に何かモードをリサーチするとか分析的に観ないといけないというような動機がなければ。

彼の名前はその時まで知らなかったが、作品を観たことはあった。「怨念戦隊ルサンチマン」という京大のサークルが作った実写の8ミリフィルムによる戦隊パロディ映画だ。VHSが出回っていたので、酒を飲みながら友人たちと、大笑いしながら何べんもリピートして観た覚えがある。20世紀末の話だ。彼はそのアマチュア映画の監督だった。後にあれを撮った人か、と知った。彼と映画の仕事で初対面の時、僕は彼の作品はルサンチマンしか観たことがないです、と言ったら「なんでそんなもの観てるんですか」と苦笑して「自分の卒業制作みたいなものだが、後輩たちはVHS化して販売したらえらく売れてしまい「このままでは自分たちは心が汚れてしまう」と途中で止めたそうだ。それでよかったかもしれない」と語っていた。

映画の話が来た当初は前にも書いてると思うがなぜ「監督の企画で監督の会社制作なのにチェックから監督を外す」という話になってるのかがよくわからなかったし、自分も映画に関わるのは初めてだったし、当時それなりに名のある監督の仕事に制作から呼ばれたことは光栄でもあった。「なんだろう?」と思ったまま打ち合わせしていたのだ。

僕は、97年からアニメ業界にいる。そのとき26歳。大学に入るのに2年浪人してしまい、さらに2年留年してバブル世代だったはずが後に言うロスジェネになって、大学の就職課にあった求人票に名前を知っている制作会社があったので就職の面接を受けたら内定をもらい、滑り込んだ。

その制作会社ではほとんど意味のある仕事はしていない。半年という長い研修期間があって、車の運転を覚えたりしながら担当の作品であるゲームのムービーが本格的に動き出すのを待っていた頃、会社から「君を雇うのは難しい」と「その域に達してない」宣告をされ、「ついては別の会社を紹介するから」と放り出された。

それで移籍先では急に忙しい現場に放り込まれ、それなりに有能な制作だったとは思うが、社長との折り合いが悪く、車の事故が多かったこともあって1年で頚にされた。僕を怒鳴りつけていたその社長(会社は後に潰れた)に去年何事もなかったかのように現場で「ああ久しぶり」とにこにこ顔で愛想を振りまかれたときはちょっと驚いたね。

その移籍先で出会った監督が一応僕の演出の師匠ではあるのだが、まあほとんど何も教えてもらってない。その監督の紹介で入った次の会社は非常に怪しい会社だった。

その会社に入る前に自分でいくつか探して(当時はフロムAとか日刊アルバイトニュースという求人誌に制作募集の記事が出ていた)面接を受けたりもしたが、短期間で前の会社を辞めているというのは不利で、色よい返事はなかった。そんな時アニメージュスタジオジブリの制作募集広告が載っていて、書類を出したら「面接に来い」と返事があり、東小金井に行った。結果的には落とされたが、この時100人以上応募があって、面接したのが8人、採用は2人だったそうだ。そのときすでに演出をやりたいと思っていた僕がジブリに制作に採用されたところで、ジブリの環境で演出になれていたとは思えないので、間違いがなくてよかったと思う。

さて、「怪しい会社」の話である。

田無にあったスタジオは、元は別の制作会社から独立した人(先の監督の仕事仲間)が始めたのだが、経営が上手くいかずに借金で行き詰ったところに舞い降りたのが早稲田のビル清掃会社の経営者だった。当時大ヒット作品で名前の知られた会社のビルの清掃を受託して、「アニメは儲かるのか」と思ったらしく、さらに偶然知り合った韓国の下請け会社の関係者とも懇意になり、借金肩代わりするからアニメ作れ、とやり始めたところでトップが素人だった。スタジオを始めた当人は仕事して借金を返すと、さっさと自分のスタジオを再建して戻っていったが、制作として残された方は経営者のわけわからん思惑に振り回された。

経営者はアニメのことなど知らない。真剣に観たこともないだろうし、ましてや作り方なんか知ってるはずもない。しかしいくつか元請けをやるような制作会社の経営者と懇意になって接待して仕事を受注したり、資金繰りに困っている社長にお金を貸したりする太っ腹なところも見せながら業界に食い込んでいた。

この経営者の金銭感覚がかなりおかしくて、そういう風に人に金を貸す割には自分が雇っている人たちや制作する作品に対しては全く金を払いたがらない。何しろ本業の清掃の労働者が賃金が払われなくて怒ってたぐらいで、大きな金額が入ってきたから万々歳、懐に入れて大丈夫、という売り上げと利益を勘違いしてるんじゃないかという風情で。

そして、この経営者はいろいろほんとに怪しい仕事を引っ張ってきた。その一つが声優オーディションでアニメを作るというものだった。どういうことかというとアニメを作るので新人声優を募集します、とやるわけです。オーディションに参加するのに結構な参加料を取る。それを原資にしてアニメを作る。

そんなことできるの?と思うかもしれませんが、この詐欺的なお話を持ってきた「プロデューサー」は過去にそういう方法でアニメを作ってたのです。ほとんど記録には残ってないと思いますが。この人もアニメ制作に関しては素人だったと思います。直接会っていませんが。

プロデューサー氏は自分で脚本を書き、新人声優たちの見せ場を作りました。20人くらいのメンバーが「✖✖です」と延々名乗るだけのシーン。

当然こんなことでどうにかなる話ではなく、自分も作業半ばで別のスタジオに移ったのでそれがその後どうなったのかは厳密には知りません。某監督が「その域に達していない」と言われた数年前のことです。

その後、僕は演出の仕事に誘われて、あるスタジオで作業をしていたのですが、その途上で「その域に達していない」とダメ出しされ、初めての演出の仕事を棒に振りました。2001年のことです。翌年にはやっとのことで演出としてクレジットされる仕事をして、17年経ちました。その間も失敗した仕事があり、仕事が全然なくて困ってた時期とかもあり最近は何とか安定していると思います。

長々と書いてきたのですが、僕は監督氏と同じ時期をアニメ業界で過ごしていて、それもマイナーな場所で変なものを見たな、とも思ってるのです。僕は何度も「その域に達していない」とダメを出されました。だからむしろ決定的な才能というものがないことにあきらめがあり、この監督は僕に似たような人だ、と思う側面(勿論それだけではない)があるわけです。途中記した詐欺商法みたいな話については、察してください。

もやもやしてたことをまとめました。

6月21日に一応全国公開されるという山本寛監督の「薄暮」ですが、僕はこの映画がその日までに完成することはないだろうと思っています。

5月24日にいわき市で開かれた最初の試写会では、14分ほどの映像が流され、翌日の東京での試写では50分全尺の映像が流されたそうですが、それは絵コンテ撮を含む白身(線撮り)が大半のフィルムだということです。試写、というにはあまりに遠い。

いわきから東京の1日で14分から50分に飛躍的に進化した、という訳ではなく、恐らくはいわき用のフィルムを作ったということでしょう。白身混じりの状態で舞台にした地元で上映することをためらったのだと思います。

アニメの編集というのは50分なら50分の尺に絵が完成してない状態でも編集してしまうのが普通です。それは先ず音響作業、アフレコに対応しないといけないからです。ジブリ作品なんかだと部分的に編集してその都度アフレコしていくということもあるようですが、この作品にはそんな余裕はないでしょう。音響というのはアニメ業界とは言っても僕らからすれば別の業界なので、「完成してない絵だけどすみません」と渡して声優さんのスケジュールも押さえられてるので…ということになるわけです。

最初の編集から大きく編集内容を変えるということは通常できません。これも音響との関係があります。アフレコの次にはダビングという工程がある。効果音、音楽、アフレコで録音した声をミックスするという作業です。絵が不完全な場合、できるだけ完成形に近い絵に差し替えるという編集の作業を経て、音響さんに渡すんですけど、そこがほぼ音のタイミングをいじられる最後です。ダビングが終わってしまうと、絵が完成した時に「音がずれている」なんてことになっても音響作業は終わっているので絵の方を音に合わせて修正するしかなくなるのです。

東京での試写会で「声、音楽、SEはほぼ完全だったから」完成したものに期待しているという人もいるようですが、完全なのは当たり前なんです。音響は完パケしていて、それ以上どうにかすることはできない。特に監督が音響監督も兼ねているようだから、そんなことは承知だろうが。

普通にテレビアニメの現場でも、ダビング終了しても画面が大半完成していないということはよくあります。ただ、最初の編集では絵コンテのコマを撮影したものだったとしても、ダビング前の差し替えでは最低限ラフ原画になっていないとその後の工程も厳しい。それでも何とかするわけですが。

ところが劇場作品を限定とはいえ公開する「試写」という段階に至って、聞き及ぶ内容がそのようなものだというのでは、これが期日通りに完成するとは到底思えない。半分以上「色のついてないカット」をつなげたものを上映することを「試写」とは言わないでしょう。

テレビの仕事でも数日前まで白身だらけだったものがオンエアされている怪奇現象がないわけじゃないのですが、制作がそういう魔法を使うには経験と体力が必要で、何より「試写」という段階で間に合わせられないのだから、結果は推して知るべしだと僕は思いますよ。

「皆が待っていた」山本寛監督の映画が、昨日関係者試写会を迎えられたそうですが、予想通りなのか予想の斜め下なのか、結局14分ほどの編集映像を流しただけで終わったそうです。(全尺50分の予定)

この世界の片隅に」がクラウドファンディングパイロット版を作ってスポンサーを呼び込んだのとは逆に、泥縄的に来月本公開というもう後のないところに追い込まれていて、しかも監督自身は7月末まで作業を続けて終わったら廃業する、とか言ってていや6月21日公開じゃないの?あなたの廃業が映画の完成となんか関係あるの?とも思う訳ですが。

昨日、今日となぜか先々週カッティング(編集)があった某作品の別話数のコンテ撮素材の作成を依頼されて作業。カッティングは明日。演出は頼まれた時点では決まってなかったようで、もしかしたら監督任せになるのか?10年くらい前だと、「担当の演出が作るものだし責任が持てない(自分の担当話数であれば何とでもなるけど)」とこの種の仕事は断っていた。まあそうも言っていられない事情(家計とか)もあり、小遣い稼ぎに時々やっている。

今回は演出がいないという状況で仕方なくですが、担当演出がちゃんといるのに「経験が浅くて作れないので」(まあこれも仕方ない)「他の仕事で忙しいので作れない」(百歩譲って仕方ない)というので話が来たりします。僕は1日か2日しか時間をかけないのでぎりぎりでコンテが上がって時間がないときなどに便利な人だと思われているのかもしれません。

制作の時からずっとコンテ撮が当たり前で編集後に何とかする(見通しが甘くて何とかならない場合も多いです)のが当たり前の現場が多かったので、最低限こうしておけば大丈夫だろうという経験則でやるわけですが、「色付き」(完成したカット)でのカッティングは苦手です。カットが完成しているということは、それなりに時間も手間もかかっているのですが、時間がかかると人間は自分が前に作業した内容をどんどん忘れていく。カットの間の辻褄が合わなくなったり、カット間の繋ぎの自由度も落ちる。アフレコやダビングで制作の進んでいくものと合わせて様子を見ながらの方が僕は作りやすいんです。

例えば今、ハリウッドの映画など、特に3Ⅾの派手なアクションなどがあるもの(「シン・ゴジラ」や「君の名は。」でも採用されている)で使われているプリヴィズの手法は日本のテレビアニメの編集方法に近いものかもしれません。あらかじめ映像コンテを完成させたうえでカットを差し替えてゆくというものですが、テレビアニメには「定尺」(放送時間とCMの時間がフォーマットとして決まっているので、編集時に全体の尺を決め込まなければならない)というものがあって、一度決めたものをいじることが少し難しい(フィルムの時代にそれやったら叱られる案件ですがデジタル時代には割と柔軟になりました)というのがだいぶ違うところです。

5月16日は、1日中アフレコ。朝11時に始まった一本目は2時に終了。その後移動して4時半からのもう一本のアフレコは夜10時過ぎまでかかり、監督も音響スタッフも声優さんも、演出としてただ立ち会ってただけではあるが僕も終わったときにはかなり疲弊状態でした。というか、終わりませんでした。一部来週まで持ち越し。ちょっと特殊な作品なので仕方ないか。

おーい。

昨日(5月8日)は、昼1時から阿佐ヶ谷でカッティング(編集)、夕方5時から三鷹でカッティング、という阿保みたいなダブルブッキング状態で仕事でした。両方ともコンテ撮素材を1日で作らざるを得ないという急な仕事で、日程をちゃんと確認してなかったらそんなことになりまして。しかも来週のアフレコも日が被ってる(時間はずれてる)ので、1日中立ち合いをやってるということになるようです。

今日はそのうちの一本の演出打ち合わせ。カッティング後に打ち合わせは本来ないですが、珍しくはないです。監督は大ベテランで、一緒に仕事するのは10年以上ぶりでしょうか。打ち合わせしててときどき飛び交う年寄りのネタに全くついて来れない20代の制作進行のきょとんとした風が可愛かったです。「イデオンみたいですねえー」「うん、みんなそういうんだよね」「知ってる?イデオン」「いえ、知らないっす」「40年近く前のアニメだからなー」って、我々はいつの間にか老人です。