瓦礫の中のゴールデンリング

アニメを作ってます。アニメがお仕事です。

外れた仕事のこと。

ただいまテレビシリーズ4本持ち。1本は今週で終わる予定。演出途中引継ぎで、大急ぎで全カットラフ原チェックした後、マーキング、ダビングと終って、制作から連絡がなくどうなってるんだか。どうにせよオンエアが来月頭なので、なるようにしかならない。

明日打ち合わせのものと、9月にインする仕事もあり、あと2本増える予定。ひと月ほど前に、レギュラーで入ってた仕事から外れて、ちょうど手は空いてたので、いい感じではある。

仕事を外れたのは、こちらから申し出たことではなく、制作の都合だが、納得はしていない。前々から元請の制作と折り合いが悪い、というかなぜか一方的に問題視されていたようなのだが、下請けスタジオがそれに乗って判断したのだろう。それにしても「次は一度別の演出に振ります。次々回よろしく」って下っ端の進行に伝えさせて、2ヵ月待たせた後に「次からも交代した人でやります」ときたもんだ。曰く、その演出さんが総監督(監督は別にいて、総監督氏はアフレコにしか来ないのだが)と旧知なので元請が以後もお願いしたいと言い出したとか。演出さんも総監督も大ベテランで大先輩であるので、お仕事を渡すことはよいが、外される理由になってないし、最初からそのつもりだったんだろ?

外されるかもな、とも思ってたので別にショックじゃないけど、1年半仕事してた相手にする扱いかね。元請の意向で外れてくれ、って最初に言えばよかっただけなのに。下請けのデスクからも事後に電話がかかってきて、「会社を辞めることになった」とのこと。今回のことも含めて、居心地がよくないらしい。知らないところでいろいろ起きているようだ。

ちなみに、元請との確執というか、無意味なリテイクを要求されるので大半突っぱねていたのが心証よくなかったんでしょう。演出的には無意味で、直すにしても別の個所や方法があるんだけど、というものが理解されない。直すのが面倒くさい、というわけでもないのですよ。

バララッシュでカットを繋げていない段階で直しの方法まで含めて指図してくるんだけど、まず偉そう(これ重要だから書いとく)。繋いでみないとムダになる可能性もあるし、指示や指摘が「コンテ読んでない(あるいは読み方が良くない)んじゃないのか?」と思わせるものがあり。大体、元請の制作がカッティングもダビング前差し替えも立ち会わない(アフレコとダビングには来る)ので、内容や事情を十分に把握してないのでは、と感じていた。編集作業に立ち会わないで演出の力量は測れないし、意図してるところも解らないですよ、元制作として言いますが。

リテイク内容が「辻褄を合わせる」ことに終始してて、「観てどう感じるか」じゃないんだよね。一例を挙げよう。主人公たちが底なし沼に引きずり込まれてゆく。というのが話の大半なのだが、次第に沈み込んでゆくという状況。ダビング前差し替え時に監督が「リテイクの時でいいので引きずり込まれてゆく動きをつけてほしい」と言い出す。「いいけど、全部のカットにはできないし、要所だけですよ」とは答えた。そんなの、やるにしても原画大半上がってチェック通してから思い付きで言う話じゃないし、コンテの段階で作画込みで考えてないと無理だし。15分くらいかけてだんだんに沈んでゆく、なんて言うのを沈んでゆくのが分かるように動きなんて付けたらあっという間に沈んじゃいますよ。実際かなり遅いスライドをつけても「速い」ってなったんだから。

さらにリテイク出しの時に元請の制作が、「沈む動きが必要なカットを洗い出します」と言い出し、カット袋が回ってきたが、6割方は不要と判断して出した。主人公たちが沈んでいると気づく直前までは動きはいらないし、別の芝居を見せる場合に邪魔になるカットではいらない。作画じゃなく撮影で足すだけならキャラを水面に消し込みのスライドということになるが、セルがずれていくだけで不自然に見えるとしか思えないので却下。何より、こういう場合は要所要所で沈んでることを示すカットがあれば、あとはカットの推移とともに位置が変わればいいだけなのだ。そういう手間をかける場所を決めるのが演出というもので、沈んでるんだから全カット動きつけろという機械的な辻褄合わせは「演出」とは言わない。それは「説明」「言い訳」の類だからだ。

ところが、不要だと言ってるのに制作が勝手に撮影に指示出しして動きを足してて、上りも観たけど、「不要だって言ってるだろ」と言うしかなかった。あれぐらいの大手ともなると、いろいろ予防を考えてしまうのだろうけど。作品に対する考え方が素人であるとしか言いようがない。

元請からの要求が、ずっとこの調子(もちろん別に有益な指摘はありましたよ)で、僕には制作の知識と経験が不足しているようにしか思えなかったのだが、「リアル志向」のつもりであったらしい。いつか気づくでしょう。