瓦礫の中のゴールデンリング

アニメを作ってます。アニメがお仕事です。

木村圭市郎さんが亡くなったと聞いて。
演出になりたての頃、60代半ばの木村さんに出会った。僕には大して思い入れがないというかよく知らないアニメーターだったが、「タイガーマスク」のオープニングを描いた人だと聞いて、あああれを作った人か、と。木村さんはよく、金田伊功の師匠のように言われるし、本人もそう思ってたかもしれないけど、金田さんの方が絶対に上手かったと思う。木村さんの作ったタイムシートは得意であるというアクションシーンでも動画の中枚数が多すぎてそのままでは緩い動きになったり逆にせわしくなったり、そして日常芝居を描けない人だな、と感じた。金田さんが日常芝居をどの程度できたかは別として、活動期間の全般でシャープな動きを作ってたし、自分で監督した作品でもそこは変わらない。だから木村さんには演出的な素養はなかったと思う。
竹熊健太郎さんのインタビューで「俺は東映タイガーマスクをやってた時、演出の描いたコンテを全部変えて描いた」という話が出ていて、それは伊達直人が電話で話しているシーンが電話で話している横顔をとらえているのが延々と続くのがつまらないので独自にモンタージュをやったのだ、というようなものと記憶しているが、「絵作りがつまらない」だけでは演出はできないのだな、と本人の口からその話を聞いた時も思った。要するに描くだけ描いて「どうだ」と出したら終わりという仕事の仕方だった。晩年(今世紀に入ってから)になってタイガーマスク的な作品を作るのだ、と演出的なことに進出すると、デジタル作業が当たり前になり始めたころで編集に立ち会うと自分が思ったタイミングになってない(もともとのタイムシートがそうだからだけど)とそこで編集にいじってもらって何とかしてたようだけど、演出は面倒くさいことに立ち会っていろいろな責任を引き受けなければならない仕事という理解はなかったように思う。
木村さんの作画に影響を受けた人は一杯いるだろうし、悪口として書いてる訳ではない。人間として面白い人だったし、嫌いでもなかった。むしろもっと木村圭市郎という規格外のアニメーターについてちゃんと評価がされるべきと思う。